暮らしのなかの経済学入門 (第1回)



   「円安」とインフレ日本経済

                資本論ワールド編集長 荒関孝志


    はじめに


  今月から読者のみなさんと、暮らしの経済を見つめて、日常生活から日本経済の深層を探りあててゆきます。
なお毎月の「平和憲法レポート」は、編集部でテーマが相談され執筆者をへて、紙面を封詰めし、郵便局から配送されます。のべ20人程度の人手をへて、あなたのご家庭に届けられています。

  さて、第一回のテーマは物価と賃金を皮切りに、「アベノミクス」でひと区切りし、第二回に連続してゆきます。このシリーズでは、筆者が日頃敬愛する「浜矩子、加谷珪一両先生」にも登場を頂き、読み物の奥行きとお得感を共有いただければ幸いです。



   物価高騰と停滞する賃金


  さて、今春の値上げラッシュ と急激な物価高騰で、安売り広告を見ながら財布とにらめっこの毎日です。

 専門の物価情報では、政府の総務省家計調査や帝国データバンクなどがあり、特徴的なデータとしては、全国労働組合組織「連合」の「賃金レポート2023」です。消費者物価と実質賃金の推移を主要9ヶ国で比較したデータですが、1991年=100として、33年間の物価上昇と賃金を指数比較したものです。

  日本の物価と賃金はともに、100~110前後で長期停滞ですが、韓国が物価上昇では断トツ250、他の欧米諸国は、160~2Ⅰ0でした。また実質賃金指数では、韓国が190、他の欧米諸国が130~170と上昇しています。((「連合」図2‐2消費者物価、図2‐3実質賃金 参照)
 このように日本だけ停滞でしたが、昨年から今年23年では、30年ぶりの物価高騰です。コロナ禍の消費停滞から一転して、まさに物価狂乱へと心配させる勢いです。

 今年8月の値上げは、家庭用を中心とした飲食料品数で、累計3万品目にのぼり、全食品分野に及ぶ年3万品目超の値上げは、バブル崩壊以後の30年間で、過去最大の値上げラッシュ 。「生鮮食品除く食料」は9.2%の値上がりでした( 帝国データバンク調べ)。

 一方、今年の春闘は、東京商工リサ―チのアンケートでは「概ね3~5%の賃上げ」と報道されています。「新卒者の初任給の増額」では、大企業が38.7%、中小企業が21.4%で実施し、大企業が17.3ポイント上回り、格差がさらに広がっています。   
 また、「人手不足に対する企業の動向調査((帝国データバンク)では、正社員の人手不足が51.4%あり、非正社員では「飲食店」が85.2%、「旅館・ホテル」が78.0%との調査結果です。
 人手不足の労働過重にあっても、昨年今年とうち続く物価高で、賃上げは思うようには進んでいません。




   非正規労働とアンダークラス


       
新しい産業革命‐生成AIの登場 


  一方、総務省「労働力調査」(2022年度)によると、非正規雇用で働く人は全国に約2、100万人。労働者の約37%、そのうち7割が女性です。日本の貧困率は15.7%、2千万人弱。また若者の2割が、不安定な雇用形態と低賃金で働く、新しい社会階級の「アンダークラス」が形成されています。
 さらに新たな産業革命—生成AIによる労働環境の激変です。AI規制が緩い日本の現状で、会社側が余剰人員だと判断すれば、リストラに踏み切る可能性が広がってしまいます。




   食料自給率と輸入物価急上昇


 日本の経済は食料自給率の圧倒的低さと、資源・エネルギーの海外依存が顕著です。さらに近年の「円安」の加速で、ガソリン・ガスを筆頭に輸入物価の上昇は一段と厳しさを増しています。「円」の為替相場・1ドル=150円前後の値下がりで、貨幣価値の下落と諸物価高のインフレが蔓延しています。公共料金の値上げ、社会保険料の税負担など家計のやりくりは限界点に達しています。


     


穀物自給率
19802020
 農林水産省

単位%

1980

2000

2020

アメリカ

157

133

116

ドイツ

81

126

103

フランス

177

191

168

イギリス

98

112

72

 日 本

33

28

28


























   今年「国の予算」はどうでしょう?


  それでは、国民生活全般を国の一般会計予算から概観してみましょう。
 総額は過去最大の114兆3千億円。財源不足を賄う国債発行は予算の31%で突出した状況です。


  【歳出】


 社会保障36兆8千億、地方交付税16兆3千億、公共事業6兆、文教科学5兆4千億、防衛6兆7千億、防衛力強化3兆3千億・合計10兆円。予備費5兆、その他9兆1千億、国債費25兆2千億。


  【歳入】


 所得税21兆、法人税14兆6千億、消費税23兆3千億、その他合算で19兆7千億、建設公債6兆5千億・特例公債29兆・合計35兆5千億― 22年度当初予算より4兆2千億の増額です。


  【主な論点】 


 ▽防衛費
  前年予算より1兆4千億増で過去最大。新設の「防衛力強化資金」では、5年間43兆で防衛費を年間2兆円以上増加させるための財源を確保することになります。


 ▽国債費
 国債や借入金などを合わせた政府の債務、いわゆる「国の借金」は、今年3月末の時点で1270兆円あまりと過去最大を更新。


 ▽「公共事業費」は

 前年度とほぼ同じですが、全国各地で自然災害が頻発し、甚大な被害が生じています。また、国交省によれば、例えば橋梁において、緊急又は早期に措置すべきものが約5万9千橋。このうち、地方公共団体における修繕等の措置の着手率は半数未満に留まっています。(2022年度末時点)。




   どうなる赤字国債の将来


  
  
  

 高度経済成長期のインフラ整備が50年を経過し、全国的に改修時期を迎えています。また、社会保障給付は2021令和3年度に、年金や医療、介護などに138兆7千億円となり、過去最高の更新です。

 国の財政を上の朝日新聞による国債発行残高から見てみましょう。
新聞報道によれば岸田内閣は、11月10日閣議決定の補正予算案13兆のうち7割を国債で賄うことを決定しました。年度末国債残高は1075兆円に達する見込みです。

 満期を迎えた国債は償還措置できず、国債の再発行で手当てします。
「借換債」は、過去に発行した国債の満期到来に伴う借換えです。国債発行総額の大半を占め、今年度の発行額は、前年度当初比+4.6兆円の増額となり157.6兆円です。
 財務省は、今年度予算案をもとに2026令和8年度までの予算試算を公表。国債の返済や利払いに充てる「国債費」を29兆8千億円と見込み歳出全体の4分の1に達します。     

 さてこのままで、果たして福祉・教育予算は大丈夫でしょうか?



   際限なき膨大な富の集積

    
累積する個人と法人の金融資産


  国家財政の借金が増加の一方で、日銀「資金循環統計」によれば、個人の保有する預金株式保険の資産は今年6月末時点で2115兆円に達しました。同時に法人企業の内部留保にあたる利益剰余金は、昨年度554兆円、7.4%増加。11年連続で過去最高の内部留保。「円安」の進行で最終当期利益は過去最高の見通し。

 一方、輸入原油や石炭が高騰し、電気料金の値上げで、製造業や中小企業にとって死活問題となっています。


    
    





     アベノミクスの総括 (1)
 
 
               「円安」とインフレ日本経済

 
  安倍晋三第2次内閣は2012年12月~20年9月で、黒田日銀総裁の任期は13年3月~23年4月です。この間、左のマネタリーベース(日銀が発行する通貨)が示すように激増の一途です。安倍黒田組の貨幣増発・金融垂れ流しにより貨幣価値が下落し、これが物価高を招くインフレ政策の最大要因です。当然賃金の実質購買力も減退し、「円安」で輸入物価は高騰します。

 さらに国債・借入金など「国の借金」総額は6月末時点1276兆円過去最大を更新。これを支え続けたのが、黒田日銀体制でした。

  暮らしと経済に深刻な危機を招く元凶の深層を探ります。           
                                   *次回に続く。(11/20記)


日銀マネタリーベース発行額   (単位:億円)
  
  

2010/1

980,675

2011/1

1,034,826

2013/1

1,319,205

2015/1

2,753,859

2017/1

4,352,054

2020/1

5,141,329

2022/1

6,627,169

2023/9

6,698,608