1. HOME
  2. 【目次】現代と世界の21世紀
  3. 憲法9条は死んだ(gr001-03)

憲法9条は死んだ-

ページ内目次(リンク)
クリックで飛びます。
■■ ■■

政府の見解は詭弁-元内閣法制局長官 阪田 雅裕

 現代と世界の21世紀

  『朝日新聞』より転載                「gr001-03」

  憲法9条は死んだ  インタビュー2023.04.14

      朝日新聞2023年4月14日(金)


  オピニオン&フォーラム 
      
  
「憲法9条は死んだ」  インタビュー

 元内閣法制局長官 阪田 雅裕 さん
 1943年生まれ。東京大学法学部卒。66年大蔵省(現財務省)に入り、
 2004年から06年まで小泉内閣で内閣法制局長官を務めた。弁護士。



 他国へ攻撃力持ち
「専守防衛は不変」
 政府の見解は詭弁



―― 昨年12月、岸田文雄内閣は安全保障の基本方針「国家安全保障戦略」を改定した。日本が弾道ミサイルなどで攻撃を受けた相手国のミサイル基地を攻撃できる能力を自衛隊が保有することを決めた。国是である専守防衛から逸脱する改定は、法治国家に何をもたらすのか元内閣法制局長官の阪田雅裕さんに聞いた。

――昨年暮れ、岸田文雄内閣が国家安全保障戦略を改定した後、「憲法9条は死んだ」と話されています。どういうことですか。

  「9条には第2項で定めた『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない』としてきたことに圧倒的な意味がありました。自衛隊があっても軍隊ではないというための柱が二つあります。まず、海外で武力行使をしない。つまり集団的自衛権を行使して米軍と一緒に戦うようなことはできないとしてきました。しかし、安倍晋三内閣が推し進めた安保法制で、この柱が一つ失われました」
 「すなわち『我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある』という『存立危機事態』に際しては、集団的自衛権を行使して良いと決めたのです。その結果、武力行使をする場所についても、わが国の周辺の公海、公空までという、地理的な制約が消え去ってしまいました」


 ――集団的自衛権を行使する場合、海外での武力行使も可能となったと。

 「その通りです。すでに瀕死といっていい9条でしたが、かろうじて『専守防衛』というもう一つの柱は生き残っていました。しかし国家安全保障戦略改定により、わが国が弾道ミサイルなどによって攻撃された場合、ミサイル基地など相手国への攻撃を行う能力を自衛隊に持たせることが決まりました。敵基地攻撃能力とよばれ、政府が反撃能力とよぶものです」
 「政府は依然として『専守防衛』の防衛戦略は不変であると唱えていますが、これは詭弁だと言わざるを得ません。なぜなら『専守防衛』の神髄は自衛隊が攻撃的兵器を持たず、敵国の領土、領海、領空を直接攻撃できる能力を持たない、すなわち役割と機能を『盾』に徹するという一点においてです。自衛隊の武力行使は敵国の軍隊をわが方の領域外に追い払うのに必要な範囲内にとどまって外国の領域を攻撃することはしない、だから他国に脅威を与えることもない、というのがこれまでの『専守防衛』だったはずです」


 ――政府は今後、敵国を狙える米国の巡航ミサイル・トマホークなどを保有すると言っています。

 「平生から攻撃的兵器を持つことが憲法の趣旨に反するのは、自衛隊が9条2項で保持を禁じた『戦力』そのものになってしまうからです。日米安保条約の下で強力な米軍部隊が駐留し続け、相当の攻撃力を持ち続ける中で、自衛隊にもこうした攻撃力を持たせることは、9条を死に追いやる行為以外の何ものでもありません。日本は自衛に徹する平和国家から、強力な戦力を有する普通の国になったといえます」


 ――国民の多くは、日本が依然として平和国家と考えています。

 「諸外国の受け止めは違うと思います。現に日本が攻撃的兵器を保有しだしたということは、いっていることとやっていることが違うと考えるでしょう。である以上、国民も覚悟を持って事態を受け止めなければ、いざ有事となって、聞いていない、では済みません。覚悟は政治にも迫られます。平和主義が時代にそぐわず、戦力たらざる自衛隊では国を守れないと考えるなら、正直にその実態を国民に訴え、憲法も実態を反映したものにしていくべきです」



  改憲が必要なら
  国民に説明する
  政治家の責務だ



 ――9条を改正するということでしょうか。

 「大切なのは法治主義の国であることを守っていくことです。憲法の拡大解釈ではなく、問題があるなら適宜、逐次改正して対応すべきです。方法はいくつかあるでしょう。まず、安保法制以前の姿に戻すという道。それが米国との関係など様々な理由で難しいなら、現在の条文はそのままとし、存立危機事態と反撃能力について、きっちりと何がどこまでできるのかを国民に説明して、それを書き加えるべきです。いってみれば限界を示す。政権が変われば、またぞろ解釈を変えて際限なき集団的自衛権、際限なき反撃能力になりかねません」

 ――改正しても、再び拡大解釈が横行する余地はありませんか。

 「改正を発議する際、しっかりと内容や目的を国民に説明することが不可欠です。あいまいさを残してはいけない。いったん、きちんとした手続き、合意を経て、改正が行われれば、何年かたって、状況の変化や問題が起きた時も、条文の改正という『王道』によることへのハードルは低くなるでしょう」


―― 安倍元首相の回顧録が出版され、「槍が降ろうが、国が侵略されて1万人が亡くなろうが、私たちは関係ありません、という机上の理論」 「阪田雅裕元法制局長官は、集団的自衛権の行使を容認するならば憲法を改正すべきだ、と言っていましたが、憲法改正の方がはるかにハードルは高い」などと阪田さんや「法の番人」と呼ばれてきた内閣法制局にいた人たちを批判していました。

 「わが国が攻撃されたとき、自衛隊が応戦するのは当然です。槍が降ってきた時に、これを防いで国民を守るためにミサイル防衛システムやイージス艦を備えた自衛隊が存在するのです。安保法制の問題は、わが国が攻撃を受けていない、侵略されてはいないのに進んで戦争に参加することです。憲法改正のハードルが高いのはどの国も同じです。国民に必要性を説明し説得するのは政治家として当然の責務と思います。それをせずに、統治権者の意思で国のカタチを変えてしまうようでは、法治国家とよべず、北朝鮮のような独裁国家と同じになってしまいます」

――解釈変更でその都度、制度を動かしてきたことには、従来の内閣法制局にも重い責任があると思います。

 「安保法制前の武力行使の三要件、つまり自衛隊は①外国からの武力攻撃が発生しない限り武力を行使せず、かつ、その場合であっても②他に手段のないときに限って③必要最小限度の行使にとどめるといった枠の中でギリギリやってきたつもりです。そうした柱を守りながら国際社会の要請が高まる中で内閣に対してもろもろの知恵を出してきましたが、どれもこの大枠をはみ出さない仕組みでした。法制局は内閣の一部局ですから、何もできませんといって済ますことは無理です。それが今日にいたったということかもしれませんが、そうであっても、存立危機事態や反撃能力の保有と従来の知恵とではあまりに差があります」

――9条は平和国家の「北極星」だから、なくせば秩序が壊れる、という意見もあります。

 「それは非常にエゴイスティックな平和主義でしょう。本来、9条は国際社会の中で輝くものであるべきなのに、現実には国民の精神安定剤のようです。小国から見れば、日本の戦力は強大なものに見えるでしょう。そのギャップを虚心坦懐に考えるべきです」
 ――従前の9条を残しつつ、存立危機事態などを書き込むというのはわかりにくい意見です。
 「憲法の立法者が目指し、私たちが教わってきたあるべき姿と、現状は相当かけ離れてしまいました。平和国家になろうとした意志と誓いを忘れてはなりません。元に戻れないというのでは、いつか来た道になってしまいます。本来そうした努力を政治にしてもらいたいとずっと思っていました。せめて安保法制前に戻すことができないか。対米的には困難でしょうが、そうした旗を掲げて歯を食いしばって取り組むことがあっていいと信じています」


・・・「与野党も国民も9条と自衛隊の実態の乖離に目をそらさず、
その差を埋める道を探るべきです」 =相場郁朗撮影・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

■取材を終えて■

 かつての内閣法制局長官が「9条は死んだ」と見る変化があっても、世間の関心は低く、国会でも目立った論戦は展開されない。
 それはすでに9条が死文化し、反撃能力の保有でダメを押されたことを当然視する国民が多いということの証左なのだろうか。 
 ロシアによるウクライナ侵攻という事態を受けて、国民の平和志向が静かに、そして明らかに転換したということになる。少なくとも隣国にはそう見えるだろう。
 しかし、「事態がこうだから、やむを得ない」と変化を安易に許容し、死んだ条文をそのままに放置することは極めて不健全な態度といわざるを得ない。与党政治家が言っていた「ナチスの手法」〔*注〕が横行する時代をこのまま放置すれば知らず知らずのうちに日本は日本でなくなっていくに違いない。
 敵の国土を攻撃できる9条とは、なんと生まれた姿から離れたグロテスクな存在だろう。たとえ大きなエネルギーや時間を要するのだとしても、9条をこのまま放置すべきではないと私は考える。 
 (聞き手・駒野剛)

 〔*注〕:長谷部恭男,石田勇治 『ナチスの「手口」と緊急事態条項
       集英社新書 2017年発行 
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 専守防衛の破綻、軍備面でもより明確に 
 
元内閣法制局長官が批判 

  自民党が「指揮統制機能」への攻撃提言を了承


2022年4月27日 06時00分
自民党本部


 自民党は26日の総務会で、外交・防衛の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書改定に向けた政府への提言を了承した。相手国のミサイル発射拠点を攻撃する「敵基地攻撃能力」を改称した上で「指揮統制機能等」への攻撃も可能とする能力の保有や、国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に置いた5年以内の防衛費増額などが柱。
 27日、岸田文雄首相に提出する。政府が年末に予定する3文書改定のたたき台となる。戦後の安保政策の転換につながる内容で、どこまで反映されるかが焦点になる。

 提言では、「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」に改称。攻撃対象を広げ、相手国領域内の軍司令部なども含むと受け取れる表現に変えた。防衛費は欧米の軍事同盟・北大西洋条約機構(NATO)が掲げるGDP比2%目標を示した上で、5年以内に必要な水準達成を目指すと明記した。

 安保上の他国の位置付けに関し、ロシアを「現実的な脅威」、中国を「重大な脅威」に引き上げた。北朝鮮を加えた3カ国が同時に軍事活動を活発化させる「複合事態」への備えが必要という主張も盛り込んだ。
 総務会では、出席者から現下の安保環境を理由に「専守防衛では限界がある」という意見が相次いだ。見直しには改憲が必要だとして、具体的な議論を国会の憲法審査会に委ねることを確認した。(川田篤志)



何と呼ぼうが問題は実態 他国の軍隊と何が違うのか

 
元内閣法制局長官の阪田雅裕氏

 自民党がまとめた国家安全保障戦略など3文書改定の提言について、元内閣法制局長官の阪田雅裕弁護士に聞いた。(聞き手・曽田晋太郎)

 ―提言には「反撃能力」と称する敵基地攻撃能力の保有が盛り込まれた。

 「これまで政府は憲法上、論理的には『持てる』と言ってきたが、実際に『持つ』こととは次元の違う話だと理解してきた。日米安保条約などに基づき、米国が日本に代わって攻撃するという役割分担を維持するなら、なぜ自ら打撃力を保有しなければならないのかを説明する必要がある。名称については、何と呼ぼうが、問題は実態だ」

 ―相手国の「指揮統制機能等」も攻撃対象に含めたことの評価は。

 「指揮命令の中枢部まで破壊することになれば、敵国を全面的に攻撃することにほぼ等しく、他国の軍隊と何が違うのか。安保法制で集団的自衛権の行使を容認したことによって、専守防衛は大きく破綻したが、そのことが軍備の面でもより明確になるということではないか」

 ―対国内総生産(GDP)比2%を視野に防衛費増額も求める。

 「専守防衛は、日本は防衛に資する軍備だけでいいから攻撃的な兵器を持たないという『質』の問題であり、同時に『量』の問題でもあった。国民的な合意があった対GDP比1%から倍増させても、なお近隣諸国は日本を平和国家と評価してくれるかという話だ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・