現代資本主義 日本と世界の21世紀
現代資本主義2ー管理通貨制度とインフレーション
国家独占資本主義と管理通貨制度 ー準備中ー
大内 力『国家独占資本主義』東京大学出版会1970発行
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インフレーション 2023.09.01
→管理通貨制度
→財政ファイナンス
日本大百科全書(ニッポニカ) 「インフレーション」の意味・わかりやすい解説
インフレーション いんふれーしょんinflation
ある程度の長期間にわたって物価が上昇し続ける現象。経済上とくに問題となるのは、悪性インフレーション、第二次世界大戦後一般化した慢性的インフレーション、そして1973年末のオイル・ショックに基づいて発生した世界的インフレーションの三つであろう。
[一杉哲也]
悪性インフレーション目次を見る
戦時・戦後の混乱期などに、商品流通に必要な量以上に不換紙幣が乱発されて物価暴騰が起こったとき、これを悪性インフレーションまたは超インフレーションという。たとえば第二次世界大戦直後の日本のそれは、空襲などによって生産能力が半減し、かつ曲がりなりにも物価統制、配給制によって抑えられていた需要が敗戦によって爆発し、そこへ軍需会社への注文取消しに対する補償という名目で多額の日本銀行券が増発されたためにまず起こった。さらに復興金融金庫が日本銀行引受けで復興金融債を発行したことが、復金インフレーションとよばれる悪性インフレーションを広げた。このように不換紙幣の乱発がもとでインフレーションとなった歴史上有名な例としては、アッシニャ紙幣による大革命期のフランス、グリーンバック(アメリカ紙幣の俗称)による南北戦争期のアメリカ、マルク紙幣による両大戦後のドイツ、第二次世界大戦後の東欧などがある。
インフレーションは社会に甚大な被害を与える。すなわち、(1)賃金はつねに物価に遅れてのみ上昇するから、勤労者に被害を与える、(2)金利生活者、年金生活者、生活保護世帯など、貨幣額が固定した収入で生活する人々を脅かす、(3)貨幣に対する信用がなくなるため貯蓄がなされず、換物行為が盛んとなり、これがいっそうインフレーションをあおる、(4)生産過程におけるより流通過程での価値増殖のほうが速くなるため生産が阻害され、闇(やみ)商人、投機者の跳梁(ちょうりょう)を許すことになる、(5)将来の見通しがたてられなくなるため設備投資などが行われず、それが生産性の停滞を通じていっそうのインフレーションをあおる、(6)こうした事態から、人心の退廃、刹那(せつな)主義の横行を招き、社会道徳が破壊される、等々である。
こうした悪性インフレーションを収めるためには、なによりも貨幣的需要を抑えて生産とのバランスを回復させることが必要であり、そのためには通貨改革(デノミネーションなど)、預金封鎖(モラトリアム)、超均衡財政、貯蓄増強などが考えられる。デノミネーションとしては、第二次世界大戦後のハンガリーで行われた40穣(じょう)分の1(1穣は10の28乗)の切上げが、世界最高であろう。増税による超均衡財政、貯蓄増強などによる政策はディスインフレーションdisinflationとよばれる。これは第二次世界大戦後イギリス労働党内閣が唱えたもので、急激な引締めでデフレーションに陥らないよう、高原状に物価を安定させることをねらったものである。日本でも、1949年(昭和24)に施策されたドッジ・ラインがこれにあたるとされる。
[一杉哲也]
慢性的インフレーション目次を見る
悪性インフレーションとは別に、第二次世界大戦後、主要国は年4~5%程度ずつ物価が上昇する慢性的インフレーションないし「しのびよるインフレーション」creeping inflationに悩まされてきた。欧米におけるこのインフレーションは、一般にコスト・インフレーションcost inflationといわれている。それは完全雇用状態と強力な労働組合とを背景として、貨幣賃金が労働生産性の上昇率を上回って上昇し、それをカバーするために価格が引き上げられ、その物価上昇がさらに賃金引上げの原因となる形でインフレーションが進行するものである。このようなコスト・インフレーションを抑えるための政策としては所得政策が考えられるが、各国ともほとんどこれには成功しなかった。
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財政インフレーション
しかしその間、一種の財政インフレーションが進行していたことも指摘される。すなわち、戦後初めて赤字公債が発行された1966年2月から1年ののち、発行後1年たった銀行保有の国債は日本銀行が無条件に買い入れるという金融政策が行われることになった。これは保有国債を売却できない銀行の救済手段であったが、結果的には1年遅れの日本銀行引受けによる国債発行にほかならず、その分だけ民間の通貨が増大することとなり、オイル・ショック後の総需要抑制策の下に一時停止されるまで、インフレーションを助長したことは否定できない。
[一杉哲也]
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オイル・ショックによるインフレーション目次を見る
1973年10月、第四次中東戦争に端を発した石油供給制限と石油価格引上げのショックは、全世界に波及してインフレーションと不況を巻き起こした。しかし日本では、オイル・ショック以前にすでにかなりの加速度的インフレーションが1972年(昭和47)ごろから起こっていたことに注意しなければならない。その原因の第一は過剰流動性である。1971年8月のニクソン声明以来、円切上げによる利益を見込んで日本に流入した外貨は100億ドルに達し、同年12月の円切上げ後も国内にとどまって、いわゆる過剰流動性となり、各種投機の資金に用いられた。第二は金融緩和である。ニクソン・ショックによって不況を予測した当局が大幅な金融緩和を行ったが、景気は1972年1月には早くも不況を脱し、余裕資金は投機に向かって流れた。典型的な信用インフレーションといえよう。第三は不況カルテルである。前記のように不況を予測した政府が、鉄鋼、石油化学などの不況カルテルを認めたが、時すでに好況期で、それら製品価格の高騰を招く結果となった。第四は「日本列島改造論」の発表であり、これが土地買占めをはじめとする投機とインフレーションのムードをつくることになった。以上のような政策ミスが重なって、かなり物価が上昇していたところへオイル・ショックが追い討ちをかけたわけである。
オイル・ショックは、第一に、先進国に輸入原燃料価格上昇→製品価格上昇→需要減少→生産停滞という波及を生じた。多くの国がインフレーションを抑えるために需要抑制策を強行したことが、前記の過程をさらに深刻化させ、世界的な不況が現出した。従来の好況=物価上昇の事態に比べて、不況=物価上昇の異常事態が現れたので、これをスタグフレーションstagflationという。第二に、産油国には石油輸入国から巨大な所得移転が生じ、それが先進工業国からの工業製品(それはすでにコスト高によって高騰している)輸入増をもたらして、産油国の物価を上昇させる。ところが、それ自体が石油収入の実質購買力を減らすから、石油価格上昇を加速化することになるという悪循環が生じた。第三に、石油を産出しない発展途上国では、先進国からの輸入品の高騰が輸入インフレーションを引き起こし、国際収支の赤字が発生した。石油産出国→先進国と流れるオイル・ダラーが非産油途上国へ貸し付けられる限り、この赤字は穴埋めされるが、それにはおのずから限界があり、非産油途上国の信用不安は募る一方である。そして外貨不足→輸入必需品不足→生産停滞→インフレーションが一般化している。第四に、こうした事態が社会主義諸国にも波及して、物価上昇と生活水準の停滞ないし低下が著しい。
[一杉哲也]
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■インフレーション
知恵蔵 「インフレーション」の解説
インフレーション
物価が上昇している状態。特に継続的に上昇し続けたり、上昇率が加速している状況をいう。インフレの原因により、デマンドプル・インフレ(demand‐pull inflation)とコストプッシュ・インフレ(cost‐push inflation)に分けられる。デマンドプル・インフレは総需要が総供給を超過することで生じる物価上昇で需要インフレ(または売り手インフレ)ともいう。この場合は、景気の状況はおおむね良好であり、インフレを抑えるために、財政支出の抑制や金融引き締めなどの総需要抑制策がとられる。要因となった需要により、消費インフレ、投資インフレ、財政インフレということもある。特定の限定された物や部門の需給が隘路(あいろ)となって物価上昇を引き起こす場合を、ボトルネック・インフレという。コストプッシュ・インフレは生産や販売に関わる費用が上昇し、その上昇が製品に転嫁されることで発生する物価上昇をいう。賃金上昇がもたらす賃金インフレ、円安や原燃料価格の上昇による輸入コストがもたらすインフレが代表的である。この場合のインフレは、政策対応が難しく、抑制に時間がかかることが多い。また物価上昇の度合いなどにより、クリーピング・インフレ(物価の下方硬直性で継続的に2〜3%の上昇が続く、忍び寄るインフレ)、ギャロップ・インフレ(年率数%ないしは数十%の物価騰貴、駆け足インフレ)、ハイパー・インフレ(超インフレの状況で、天文学的な貨幣価値の下落を引き起こす)などともいわれる。また、インフレの原因が国内要因にある場合の国内インフレ(ホームメード・インフレ)と、海外からもたらされる場合の輸入インフレとに区別することもある。
(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)
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百科事典マイペディア 「インフレーション」の意味・わかりやすい解説
インフレーション
一般には通貨の量が財貨の取引量を越えて増発され,貨幣価値が下がり,物価の上昇がつづく現象を指す。略してインフレともいう。現在では必ずしも通貨の膨張が先行しなくても,種々の原因で物価が継続的に上昇する状態と考えられている。金本位制が廃止され,不換紙幣が流通する場合に,増発された紙幣がインフレを招く。戦争や恐慌の際に財政資金調達のため公債発行等を通じて乱発される紙幣は急激な物価騰貴を招くが,このような急速なインフレを〈超インフレ〉とか〈ハイパー・インフレ〉という。しかし管理通貨制度をとる今日の資本主義経済では,徐々に進むインフレが慢性化し,これは〈忍び寄る(クリーピング・)インフレ〉と呼ばれる。インフレは物価上昇の原因により,需要が供給を超過した場合の需要インフレと,生産コストの上昇によるコスト・インフレーションに大別される。前者は需要増加の原因により財政インフレーション,銀行信用の増大による過剰投資に基づく信用インフレ,輸出増加による輸出インフレ等に分けられる。後者の原因を賃上げに帰する見解もあるが,むしろ独占企業の管理価格を主因とし,これが国家の財政金融政策による需要の圧力と結びついたものとする見解が有力である。インフレは紙幣の減価による実質賃金の低下,低所得者層の困窮等を通じて国民所得の再配分をもたらす。→インフレ・ギャップ/デフレーション
→関連項目クラウディング・アウト|スタグフレーション|政府紙幣|積立方式|ディスインフレーション|リフレーション
出典 株式会社平凡社
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精選版 日本国語大辞典 「インフレーション」の意味・読み・例文・類語
インフレーション
〘名〙 (inflation) かなりの長期間にわたり、物価が継続的に上昇すること。不換紙幣が商品流通に必要な貨幣の量以上に乱発され、その結果、貨幣価値の暴落と物価の騰貴が起こって、一般大衆の実質所得の減少などの弊害が現われる。第一次世界大戦後、ドイツでのマルク紙幣乱発によるものが有名。インフレ。⇔デフレーション。
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デジタル大辞泉 「インフレーション」の意味・読み・例文・類語
インフレーション(inflation)
1 一般的物価水準が継続的に上昇し続ける現象。発生原因によって、需要インフレーション・コストインフレーション、発現形態によって、ハイパーインフレーション・クリーピングインフレーションなどに分類される。インフレ。⇔デフレーション。
2 膨張。ふくらんだ状態。
3 ⇒インフレーション宇宙
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世界大百科事典 第2版 「インフレーション」の意味・わかりやすい解説
インフレーション【inflation】
物価水準の上昇が続いて,貨幣価値が下がっていく状態をさす。inflationとは〈ふくらませること〉を意味するが,アメリカで南北戦争時にグリーンバックス紙幣の発行量の膨張に伴って物価がいちじるしく騰貴したことから,現在の用法が定着した。 現実の経済には無数の商品が存在し,それぞれの市況を反映して個々の価格はたえず変動している。このため実際にインフレーション率を計測するには物価指数を作ることが必要となる。
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→管理通貨制度2023.06.12
→国債本位制
→日本の財政問題
→インフレーション sj001_11
→財政ファイナンス
→信用創造
→金融論ー貨幣の経済学
→個人金融資産2000兆円の内訳
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管理通貨制度2023.06.12
管理通貨制度
(005-2) 管理通貨制度 managed currency system
国内通貨の流通量を,正貨(金)準備の増減によって,機械的に増大させたり減少させるのではなく,通貨当局が政策目標に応じて国内の通貨流通量を管理調節しようという制度。1920年代前半にケインズ(J.M.Keynes)によって構想されたが,具体化したのは一般的に1930年代である。今日ではほとんどの国がこれを採用している。
==日本の管理通貨制度==日本銀行のホームページ
管理通貨制度とは,中央銀行が通貨の供給(流通貨幣量)を政策的に管理する制度である。この制度の政策目標は,物価の安定,通貨の購買力の調節と信用と雇用の安定にあり,またその実現の責務を中央銀行は負っている。日本では,1882年の日本銀行設立後,戦時立法である1942年の日本銀行法によって管理通貨制に移行する。日本銀行は特殊法人(資本金1億円で政府55%,民間45%所有)であるが,「通貨の調節,金融の調整及び信用制度の保持育成」を目的とする中央銀行である。この中央銀行は一般的には次のような3つの機能をもつ。
第1は発券銀行であり,発行権を独占しているが,発券限度は政府決定による。第2は銀行の銀行であり,民間銀行との間で当座預金による取引・貸付け・債券売買・為替取引を行う。第3には政府の銀行であり,政府との間で預金・貸付け・国庫事務・外国為替事務などを行う。金融政策としては,公定歩合操作(手形再割引率),公開市場操作(手形や債権の売買で買オペレーションと売オペレーションで操作),預金準備率操作(支払準備率の変化で信用創造を調整。銀行の規模と種類,預金の種類に応じて1.2%~0.05%の幅)を行っている。
(増田・沢田編著『現代と現代経済学(第2版)』有斐閣,有斐閣ブックス,2007年,38頁)
*大内 力『国家独占資本主義』東京大学出版会1970発行
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◆国債本位制2023.06.12
ーウィキペディア
国債本位制(こくさいほんいせい)とは、その国の中央銀行が発行する貨幣が、その国の政府が発行し中央銀行が保有している国債に裏付けられているという貨幣制度である[1]。
国債本位制を成り立たせる条件
その国の中央銀行が発行する貨幣(当座預金、中央銀行券)によって、その国の政府が発行する国債(元本保証と金利保証がある)を購入できるし、その国債をその国の中央銀行が発行する貨幣(当座預金、中央銀行券)に交換することもできるし、その貨幣によって物やサービスをその国において十分に購入できるために必要な、生産と流通と決済の仕組みが維持されている事である。
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