現代資本主義 日本と世界の21世紀
信用創造
ウィキペディア2023.08.29
信用創造(しんようそうぞう、英: credit creation)とは、銀行が貸し付けによって預金通貨を創造できる仕組みを表す[1]。簡易には準備預金制度のもとで、銀行が有する「貨幣を生み出す」機能を指す[1]。
創造される信用貨幣の量は準備預金制度に依存し[2][1]、家計や企業の資金需要と借り手の返済能力の影響を受ける[3]。銀行が貨幣経済において果たしている重要な機能のひとつであり、預金創造とも呼ばれる[1]。現代のほとんどの経済機構では、マネーサプライの大部分は銀行預金の形をとっている。中央銀行は、いわゆる通貨における量的金融指標を測定することにより、経済機構内の貨幣量を監視する。
概要
信用創造とは、一般的に銀行が返済能力のある企業等の資金需要に応じて、借り手の預金口座に貸出金相当額を記述し、預金通貨を生み出すことを指す[4]。このとき、預金から貸出しを行うことはなく、銀行が保有する原資を必要とすることもない。また逆に借り手の返済により預金通貨は消滅することになる[5][6][7][8]。
近年、多くの経済学の教科書で信用創造に関し誤った記述があるとしてイングランド銀行などからも問題視されている[9]。実際の銀行業務では預金者から預かった預金を貸し出すことはなく、借り手の預金口座に貸出金相当額を入金して新たに創出したお金で貸し出しを行う。従って、銀行が預金を受け取った後にその預金を再び貸し出すという解説は誤りであり、中央銀行の貨幣が乗数効果を生むわけでもない。このため、誤った信用創造の理解に基づいた経済理論は現実の経済実態を反映していないと問題視されている。
銀行は信用供与により銀行の負債である信用貨幣を新たに造りだすことができる。銀行が信用供与(すなわち貸出あるいは証券投資)をする際に、借り手(あるいは証券の売り手)の銀行口座にその金額を記入する。このことにより、貸し出しの際には新たな預金通貨がつくりだされ、返済の際には預金通貨は消滅する。すべての預金通貨は信用創造によって創出され、このような預金通貨から必要に応じて引き出された現金通貨が市中(銀行業システムの外部)で流通する。ただし資金需要がなければ銀行は信用創造できない。
現金通貨と中央銀行当座預金は中央銀行の信用創造によって供給される[10]。
返済能力のある企業に借り入れの資金需要があれば、信用創造の規模は理論的には無制限であるが、現実的には銀行の貸し付け可能な限界点や家計と企業の行動による制限[11]、BIS規制といった制限が存在している。
信用創造と景気循環
設備投資による借り入れなどが増加する景気のよい時期には、自然と貨幣が増加する。一方、設備投資が一巡し、新たな借入よりも返済が多くなれば、景気は落ち着き、貨幣は減少する。
このように信用創造は、貨幣需要(資金需要)にあわせて変動し、景気(名目GDP)と正の相関をもつことが想定される。マネーサプライ(現金+預金)と名目GDP(物価×実質GDP)の比をあらわすものには貨幣の所得速度がある。
信用貨幣論
2007年から2008年の金融危機以降、マネーサプライが貨幣乗数によって制限されるとする部分準備理論に対する批判が高まっている。中央銀行は必要以上の準備金を供給しており、また銀行は必要なときに追加の準備金を積み上げることができるため、銀行の準備金は制限要因ではないことが確認されている。多くのエコノミストや銀行家は、流通しているお金の量はローンの需要によってのみ制限され、準備要件によっては制限されないことを認識している。
銀行が顧客に1000ドルのローンを発行すると、彼らは顧客の借入金口座に1000ドルを借方記入し、同時に顧客の預金口座に1000ドルを貸方記入し、使用できるようにする。今、銀行には1000ドルの新しい資産と1000ドルの新しい負債があるが、資産と負債が同じ量だけ増加するため、銀行の口座はまだバランスが取れている。銀行の貸借対照表は、単純に1000ドルだけ拡張される。銀行はその準備金から1000ドルには手を付けない。その1000ドルは、取引前には存在しなかった新しい流通貨幣なのである。
銀行ソフトウェアの調査は、銀行がローンを発行するときに2つの口座に金額を追加する以外何もしないことを示している。こうして銀行が流通させることができる信用貨幣の量には制限がないように見えるという所見は、「銀行はどこからともなくお金を生み出している」「銀行は薄い空気からお金を創造している」というよく聞かれる表現を生み出した。
ローンの発行時にこの方法で生み出される金額はローンの元金(利息が計算される債務の元の金額)と同じだが、ローンの複利(ローンまたは銀行口座のように、元本の合計に未払いの利息を累積して計算される利息)を支払うために必要な金額は生み出されていない。このプロセスの結果として、世界の債務額はマネーサプライの合計を超える。現行の銀行制度の批評家は、この理由から幣制改革を求めている。
ジョセフ・シュンペーターを嚆矢とする信用貨幣論は、マネーサプライの創造者、配分者としての銀行の中心的な役割を主張し、(技術革新のもと、完全雇用を達成しながらインフレなき経済成長を可能にする)「生産的な信用創造"productive
credit creation"」および(消費者物価または資産価格のいずれかのインフレをもたらす)「非生産的な信用創造"unproductive
credit creation"」を区別する。
中央銀行の操作(「金融緩和"monetary easing"」など)を通じて刺激されるという銀行貸出のモデルは、ネオケインジアン派経済学およびポスト・ケインズ派経済学の分析、ならびに中央銀行によって
as well as central banks 却下された。反対派のdissident分析によって提示された主な言い分は、銀行の貸借対照表の拡張(たとえば、新しいローンによるもの)は、それによって法定準備金が銀行から不足した場合、銀行は準備率の制限内で返却するために追加費用を負担するので、(銀行が)ローンから期待できる収益に影響を与える可能性があるということである–しかしこのことは、「そもそも銀行がローンを提供する能力を妨げることはない」。銀行は最初に貸し出し、それから準備率をカバーするのである。貸与するかどうかの決定は、通常、中央銀行がもつ準備金や顧客からの預金とは無関係であって、とにかく、銀行は預金や準備金を貸し出しているのではない。銀行は、顧客の事業の状況、融資の見込み、および/または全体的な経済状況などの貸出基準貸付基準に基づいて融資を行うのである。
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内生的貨幣供給理論
イングランド銀行の季刊誌(2014年春号)は「現代経済における貨幣の創造」の中で、銀行が民間主体が貯蓄するために設けた銀行預金を原資として貸出しを行っており、中央銀行がベースマネーの量を操作して経済における融資や預金の量を決定しているという見解は通俗的な誤解であると指摘している[12]。銀行による貸出しは、借り手の預金口座への記帳によって行われるに過ぎず、銀行は何もないところから、預金通貨を作り出している。銀行は預金という貨幣を元手に貸出しを行うのではなく、その逆に、貸出しによって預金という貨幣を創造している。貨幣を負債の一種とみなす信用貨幣論を前提とし、需要に応じて銀行によって貨幣が供給されるとする理論は内生的貨幣供給論と呼ばれている[13]。
中野剛志によれば企業などの資金需要の増大が銀行の貸出・預金を増やし、そしてベースマネーを増やすのであって、ベースマネーの増加が銀行の貸出しを増やすのではない[14]。
また中野は、現代経済において銀行は元手となる資金の量的な制約を受けることなく潜在的には無限に貸出しを行うことができ、制約があるとすれば、貸し手側の資金力にではなく、借り手側の返済能力にあるとする。銀行は借り手に返済能力があると判断する限り、いくらでも貸出しに応じることができる。現代のような複雑かつ大規模な資本主義経済が可能になったのは、その中心に、銀行による信用創造があるからである。銀行は貸出しを増やせば、それに応じた準備預金を増やさなければならないので、金利を調節すれば、銀行の融資活動に影響を及ぼし、貨幣供給を調整することができる[13]としている。
ポスト・ケインズ派のハイマン・ミンスキーは「貨幣がユニークなのは、それが銀行による融資活動の中で創造され、銀行が保有する負債証書の約定が履行されると破壊される点にある。貨幣はビジネスの通常の過程の中で創造され、破壊されるのだから、その発行額は金融需要に応じたものになる。銀行が重要なのは、貸し手の制約にとらわれずに活動するからにほかならない。銀行は資金を貸すのに、手元に資金を持っている必要がないのである。この銀行の弾力性は、長期間にわたって資金を必要とする事業が、そのような資金を必要なだけ入手できるということを意味する」と述べている[15]。
国債と内生的貨幣供給理論
日本政府は私企業とは異なり、民間銀行に口座を保有しておらず、円に関する預金口座は日本銀行のみに開設している。また銀行が国債を購入するには、銀行が日本銀行に保有する当座預金残高を利用している。その具体的な過程は以下の通りである。
銀行が国債(新発債)を購入すると、銀行保有の日銀当座預金は、政府が開設する日銀当座預金勘定に振り替えられる。
政府は、たとえば公共事業の発注にあたり、請負企業に政府小切手によってその代金を支払う企業は、政府小切手を自己の取引銀行に持ち込み、代金の取立を依頼する。
取立を依頼された銀行は、それに相当する金額を企業の口座に記帳する(ここで新たな民間預金が生まれる)と同時に、代金の取立を日本銀行に依頼する
この結果、政府保有の日銀当座預金(これは国債の銀行への売却によって入手されたものである)が、銀行が開設する日銀当座預金勘定に振り替えられる
銀行は戻ってきた日銀当座預金でふたたび国債(新発債)を購入することができる
したがって、銀行の国債消化ないし購入能力は、日本銀行による銀行にたいする当座預金の供給の仕振りによって規定されている。
赤字国債の発行にもとづく政府支出の場合であれ、建設国債の発行にもとづく政府支出の場合であれ、銀行は受け入れた預金を基礎に国債を購入するわけではなく、逆に、政府が国債を発行し、銀行がそれを購入することによって、預金が創造される[16]。
1から6までの過程自体は、少なくとも理論的には無限に続き得るものであり、この過程が示すように政府の支出は民間企業の貯蓄となる。政府の財政赤字は民間貯蓄によってファイナンスされているのではなく、その反対に、政府の財政赤字が民間貯蓄を生み出している[17]。
◆中野剛志『奇跡の経済教室』KKベストセラーズ、2019年、pp.96-105
信用創造とは、一般的に銀行が返済能力のある企業等の資金需要に応じて、借り手の預金口座に貸出金相当額を記述し、預金通貨を生み出すことを指す[4]。このとき、預金から貸出しを行うことはなく、銀行が保有する原資を必要とすることもない。また逆に借り手の返済により預金通貨は消滅することになる[5][6][7][8]。
*近年、多くの経済学の教科書で信用創造に関し誤った記述があるとしてイングランド銀行などからも問題視されている[9]。実際の銀行業務では預金者から預かった預金を貸し出すことはなく、借り手の預金口座に貸出金相当額を入金して新たに創出したお金で貸し出しを行う。従って、銀行が預金を受け取った後にその預金を再び貸し出すという解説は誤りであり、中央銀行の貨幣が乗数効果を生むわけでもない。このため、誤った信用創造の理解に基づいた経済理論は現実の経済実態を反映していないと問題視されている。
歴史
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BIS規制
BIS規制ーNOMURA野村証券 2023.09.01
証券用語解説集 BIS規制 自己資本比率
銀行の財務上の健全性を確保することを目的として、1988年7月にBIS(Bank for International Settlements=国際決済銀行)の常設事務局であるバーゼル銀行監督委員会で合意された、銀行の自己資本比率規制のこと。「バーゼル規制」「バーゼル合意」ともいう。銀行として備えておくべき損失額をあらかじめ見積もり、それを上回る自己資本を持つことを要求している。
具体的には、銀行の自己資本を分子、リスクの大きさを分母とする比率(自己資本比率)が国際的に活動する銀行には8%以上であることを求めており(海外拠点を持たない銀行は4%)、日本では1993年3月末から適用された(バーゼル1)。
その後、銀行の抱えるリスクの大きさ(自己資本比率の分母)をより精緻なものとするべく、1998年からバーゼル1の抜本的な見直しが開始され、2004年6月に新BIS規制(バーゼル2)が公表された。なお新BIS規制では自己資本比率の分子と達成するべき水準についてはBIS規制と変更がない。日本では、2007年3月末から適用。
また、リーマン・ショックに端を発する世界的な金融危機を背景に、2010年9月には規制内容を再検討した「バーゼル3」が公表された。「バーゼル3」では、自己資本の「量」と「質」の見直しを柱とし、「量」では自己資本比率の水準(8%以上)の引き上げを、「質」では普通株や内部留保など、より資本性の高いものを多く保有するよう示唆。
具体的には、自己資本を「狭義の中核的自己資本(コアTier1)」、「中核的自己資本(Tier1)」、「総資本」の3段階に区分し、それぞれの比率を2013年から段階的に引き上げ、最終的に4.5%、6%、8%の最低基準を満たすと同時に、2016年以降は金融危機時における損失の吸収に使用できる資本保全バッファーの導入(最終的に3つの資本に対して2.5%上乗せ)を盛り込んだ(2019年に完全施行)。
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◆信用創造 2023.08.29
百科事典マイペディア 「信用創造」の意味・わかりやすい解説
信用創造【しんようそうぞう】
銀行が信用貨幣を創造すること。預金創造ともいう。信用貨幣には銀行券と預金貨幣とがあるが,ふつう信用創造といえば市中銀行による預金貨幣の創造をさす。銀行に現金の預金(本源的預金)があれば,これから預金準備金を差し引いた金額は貸出しに当てることができる。貸出しは通常手形または証書で行われるので,この際即座には現金は流出せず,その一部分は預金(派生的預金といい,通常当座預金の形をとる)として,銀行に滞留するのが通例である。この派生的預金から預金準備金を差し引いた金額はまた貸出しに当てることができる。こうして銀行は手持現金に対する一定比率(預金準備率の逆数)まで貸出しを増加させることができる。
→関連項目銀行|ハイパワード・マネー
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「信用創造」の意味・わかりやすい解説
信用創造 しんようそうぞう credit creation
預金創造ともいう。一般に銀行が初めに受入れた預金 (本源的預金) から,貸付操作によって預金通貨を創造すること。信用創造される額は支払準備率に依存して決定される。信用創造は貨幣的景気理論では,景気循環の原因であるとされている
(R.G.ホートリー,F.A.ハイエクなど) ほか,資本主義経済発展の原動力である技術革新に必要な購買力をまかなうもの (J.A.シュンペーター
) との説もある。しかしその本質や経済的意義については定説といえるものはない。
◆百科事典マイペディア
「シュンペーター」の意味・わかりやすい解説
シュンペーター
オーストリア生れの経済学者。1932年渡米し帰化。オーストリアの大蔵大臣,ボン大学教授,ハーバード大学教授,計量経済学会会長などを歴任。企業者は新製品,新生産方法,新市場,新経営組織等の採用(イノベーションまたは革新)を,銀行の創造する信用を借りて遂行し利潤を得る,という動態発展理論を唱え,この革新が資本主義の変革・破壊を招くとした。また景気循環は革新の集団的生起によるとした。主著《経済発展の理論》《景気循環論》《資本主義・社会主義・民主主義》。
→関連項目技術革新|リセッション|ローザンヌ学派
出典 株式会社平凡社
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→管理通貨制度2023.06.12
→国債本位制
→日本の財政問題
→インフレーション
→財政ファイナンス
→信用創造
→個人金融資産2000兆円の内訳
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管理通貨制度 2023.06.12
(005-2) 管理通貨制度 managed currency system
国内通貨の流通量を,正貨(金)準備の増減によって,機械的に増大させたり減少させるのではなく,通貨当局が政策目標に応じて国内の通貨流通量を管理調節しようという制度。1920年代前半にケインズ(J.M.Keynes)によって構想されたが,具体化したのは一般的に1930年代である。今日ではほとんどの国がこれを採用している。
==日本の管理通貨制度==日本銀行のホームページ
管理通貨制度とは,中央銀行が通貨の供給(流通貨幣量)を政策的に管理する制度である。この制度の政策目標は,物価の安定,通貨の購買力の調節と信用と雇用の安定にあり,またその実現の責務を中央銀行は負っている。日本では,1882年の日本銀行設立後,戦時立法である1942年の日本銀行法によって管理通貨制に移行する。日本銀行は特殊法人(資本金1億円で政府55%,民間45%所有)であるが,「通貨の調節,金融の調整及び信用制度の保持育成」を目的とする中央銀行である。この中央銀行は一般的には次のような3つの機能をもつ。
第1は発券銀行であり,発行権を独占しているが,発券限度は政府決定による。
第2は銀行の銀行であり,民間銀行との間で当座預金による取引・貸付け・債券売買・為替取引を行う。
第3には政府の銀行であり,政府との間で預金・貸付け・国庫事務・外国為替事務などを行う。金融政策としては,公定歩合操作(手形再割引率),公開市場操作(手形や債権の売買で買オペレーションと売オペレーションで操作),預金準備率操作(支払準備率の変化で信用創造を調整。銀行の規模と種類,預金の種類に応じて1.2%~0.05%の幅)を行っている。
(増田・沢田編著『現代と現代経済学(第2版)』有斐閣,有斐閣ブックス,2007年,38頁)
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◆国債本位制 2023.06.12
ーウィキペディア
国債本位制(こくさいほんいせい)とは、その国の中央銀行が発行する貨幣が、その国の政府が発行し中央銀行が保有している国債に裏付けられているという貨幣制度である[1]。
国債本位制を成り立たせる条件
その国の中央銀行が発行する貨幣(当座預金、中央銀行券)によって、その国の政府が発行する国債(元本保証と金利保証がある)を購入できるし、その国債をその国の中央銀行が発行する貨幣(当座預金、中央銀行券)に交換することもできるし、その貨幣によって物やサービスをその国において十分に購入できるために必要な、生産と流通と決済の仕組みが維持されている事である。
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